19.06.2011 (Sun)
カナダ出身の写真家ジェフ・ウォール(Jeff Wall)のエキシビションを見た。これまでもことある度に彼の作品を目にしてきた。いつも気になっていたものの、どこのどんな写真家なのかという実態を知るまでには至らなかった。現在ブリュッセルにて大規模なジェフ・ウォール展が開催されている。ここでは彼の初期の作品から未発表の最新作までをみることができ、それにプラスして彼がこれまで影響を受けてきたという有名なアートの数々も多数展示されている。そんなリッチなコレクションを自身の個展のために集められるという事実だけでもジェフ・ウォールの存在の大きさが伺える。
裏側から発光する特殊なフレームに組み込まれ大きな写真達。どれもとてもリアルで生々しい日常生活の断片が切り取られている。リアリスティックな写真を撮る写真家なんだろうかと思い見てまわる。次第に違和感を覚える単なるリアルな日常でもなさそうだ。どうも暗い。何かおかしい。大半の登場人物無表情なのだ。そして誰もが重い雰囲気を背負っているような写真ばかりだ。リアルな映像の中に現代生活の孤独感や郷愁を反映させている。そんな雰囲気ばかりだ・・・それはまさしく、エドワード・ホッパーの絵の中に見られる寂しさと重なる。普段何気なく見ている風景に人の心が重ね合わせられている。
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ガラスの透明性やきれいに整備された芝生は自然としてそこに存在する訳ではない。そこにはそれ生み出すための不自然なまでの管理により持続されている。近代のピュアな状態とは不自然さでもある。
JEFF WALL, MORNING CLEANING, MIES WAN DER ROHE FOUNDATION, 1999
EDWARD HOPPER, PENNSYLVANIA COAL TOWN, 1947
繰り返される日々。最新情報を入手し豊かな明日を夢見る。しかしその前に目の前にいる大切な人との豊かな一時を育むべきではないのか。
JEFF WALL, A VIEW FROM AN APARTMENT, 2004
EDWARD HOPPER, ROOM IN NEW YORK, 1932
都市の中で誰にも気兼ねなく一人になれる場所。個室は自分と向き合うための場。誰もが同じ姿勢で自らと向き合うのだろうか?
JEFF WALL, AFTER'INVISIBLE MAN' BY RALPH ELLISON, 1999
EDWARD HOPPER, HOTEL ROOM, 1931
暗闇の中、かすかな希望を見つけて次のステップへ。
JEFF WALL, ODRADEK, TABORITSKA 8, 1994
EDWARD HOPPER, SUMMER EVENING,1947
パーティを心から楽しめる人はいるのだろうか。華やかな球体は宙を舞い心は不安定に漂う。
JEFF WALL, A VENTRILOQUIST AT A BIRTHDAY PARTY, 1990
EDWARD HOPPER, SOIR BLEU, 1914
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これらのアートが教えてくれることは、目に見える一見華やかな都市の日常はほんの表層にすぎないということだ。「表層に惑わせることは無い。その裏側に広がる人々の心を見れば、都市は多くの迷いや問題を抱えたあなたと同じ人間の集合体として形成されている。」といったメッセージがそこにはある。都市はみんなが漠然と感じる程に力強くも無く華やかでも無いのだ。
ジェフ・ウォールやエドワード・ホッパーは都市生活を営む人々へ慰めに似た理解を示した心優しいまなざしの持ち主なのではなだろうか。