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マスクとUFO
11.06.2011 (Sat)

久しぶりにボイマンズ美術館へ出かける。今週の三連休が影響してか普段の週末は混雑している美術館はガラガラ。誰もいない展示室をゆっくり静かに歩き廻る。

あるコーナーを曲がった時とても不思議な彫刻に出会った。動物のマスクのような作品が数点壁に掛けられている。焼き物のような独特の質感、そして横から差し込む自然光によってうっすらと赤やピンクに光が反射する。静かな美術館でいきなりこんな作品を目の当たりにしドキっとする。なんとも言えない不気味さがある。古い作品なのか新しい作品なのかもまったく想像がつかない不思議な存在感がある。

作者は Boris van Berkum という68年生まれのオランダ出身のアーティスト。彼は様々な歴史上の芸術スタイル、文化を融合することに興味を持ち主に彫刻作品を制作している。例えばヨーロッパにおけるクラシカルな胸像や教会に見られる彫刻作品、ヒンドゥー教、仏教彫刻、アフリカのアート等への深い興味と理解に基づいている。

それと同時に彼はいろいろな新しい素材への興味も示している。ブロンズはもちろんセラミック、チョコレートやマショマロのようなものさえアートの素材として利用している。彼はそんな歴史上のスタイルや彫刻や形態が再び現代の生活の中に戻ることを提唱しそんな自身のスタイルを "Mega Renaissance" と呼んでいる。

歴史への視線が良いと思う。何か新しいものを生み出すことに追われがちなアーティストの中で、歴史を振り返り、その融合の中から作品を生むという姿勢が面白いと思う。現在という時代設定、自分自身のデザイン、オランダという活動の場、そういったことから少し開放された彼の態度がとてもきもち良いからだ。このアーティストのような若い世代に属する作家は未来、もしくは新しさ、そして作家性ということに対する捉え方が前の世代と少し違う。それは今まで培われてきた彫刻の歴史の全てに対して目隠しをして、そうでは無いものを作りそれが私の生み出した新しさだと主張することと大きく違うと思う。

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別の展示室へ行くと "Futuro - Constructing Utopia" と題した展示が開催されている。大きな展示室の中にUFOがある。これはフィンランドの建築家 Matti Suuronen が1968年にデザインした Futuro と呼ばれるプレファブ住宅ユニットだ。中にも入れて覗いて見ると、キッチンもトイレも完備されベットルームがあり、大きなリビングルームが中心にある。全てが曲線でデザインされていて、60年代に人類が夢見た未来の姿が凝縮されているような夢のプレファブユニットだ。

このような卵型UFOで生活を送ることが未来だと考えた人が沢山いた。そして40年経った。21世紀になりいろいろなことは変わったけれど、こと住宅に関して言えば今僕らは40年前とはそれほど代わり映えのしない建物で生活をしている。だれも円盤のユニットで生活を送っているわけではない。

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フィンランドの建築家は、歴史に蓋をしてそれまで誰も実際に見たことの無かった円盤型のユニットをデザインし未来を語った。一方オランダの彫刻家は、歴史の蓋を開けかき回し何となく見たことがあるけど少し何かが違う彫刻を制作している。

彫刻家のような柔軟な視点を持った系譜学的思考に学びたい。
Top▲ | by takeshimurakuni | 2011-06-13 22:43

ロッテルダムの設計事務所OMAで建築・都市について考える。「人生の夏休み」、「35歳のインターン」の続編です
by takeshimurakuni

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